2012年04月10日

1986年の残照 令嬢 17

 中小企業の経営者風の二人は話を続ける。
「マネーの供給を増やしてくれるなら、なおさら今のうちにそのカネを貯め込まないといけないね。お姉ちゃんはともかく、株と土地しかないだろ。製造に投資してもこれだけ円高になっちゃあ輸出は終わりだからな」
「輸出がダメだから、内需拡大のためにマネーを吐き出すんだよ」
「内需ったって、こんな狭い国で何を買うんだ? 狭い家の中が物でいっぱいになっちまって足の踏み場が無くなっちまうよ」
「だから、庶民にはカネを使わせない。使うのは、議員先生とお役人様と公共事業を受注する民間企業だけ。そこで市場に溢れたマネーを山分けする」
「おれたちはそいつらにくっついてお零れを貰うしかないな」
「そう、だから、政府もできれば株式を上場してる会社に公共事業を回してほしいわけよ。おれたちはその企業の株を買って儲ける。あとは公共事業をやる土地を買う。便乗値上げを狙ってその周りの不動産を買う」
「公共事業をやる土地なんて、議員先生とお友達じゃないとわからんだろうよ。話が出たあとにせいぜいその周りの不動産の買い取り合戦に参加できるかどうかだな」
 会話を交わす二人のうちの一人が、早坂を一瞥した。早坂の顔には憂いが見えた。
「おっと、あまりはしたない話は控えましょう。ここは社会の安全を守ってくれてる警察官殿の集まりだからね」
「そうそう、経済よりも正義だよ、大事なのは。これから金融緩和の時代、カネが株や土地に流れる。不正が無いかしっかり見張っていてもらわないとな」
「その通りだ」
 二人はさもおかしそうに笑っていた。



posted by 論虚空 at 08:13| 1986年の残照 5章 令嬢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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