2012年04月12日

1986年の残照 令嬢 19

 笙院は早坂の背後から現れたこの女性に落ち着いてお辞儀をした。
「こちら、早坂警部ですね?」と若宮早苗は笙院に向かって早坂越しに尋ねた。
「ええ、そうです。警視庁捜査一課に転任されてきた早坂警部です」
「早坂さん、はじめまして。若宮と申します」と早苗は早坂に、まるで蝶のような軽さと優美さで会釈した。
「こちらこそはじめまして、早坂です」早坂は普段より多少緊張していた。
「このあとすぐに挨拶をします。そのときに早坂さんのことを皆さんにご紹介したいんです」早苗は少し顎を突き出し気味にして言った。
「あの……」早坂は戸惑っていた。
「わたしが前でお名前を呼びますので、手を揚げて振ってくださればいいわ。こんな風に」と早苗は手を揚げて振って見せた。「よろしいですね?」
 早坂は早苗に憂えるような視線を送っていた。
 笙院は黙っている早坂を心配そうに見ていた。「早――」と笙院が言うや早坂は返事をした。「わかりました。そのようにします」と早坂は低く厳かに言った。
「そう。良かった。それじゃあ、お願いしますね」と早苗は子供を優しく諭すように言い残すと会場正面に向かって歩いて行った。



posted by 論虚空 at 07:55| 1986年の残照 5章 令嬢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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